今回は「走れメロス」の原作と言われているシラーの「人質」を紹介したいと思います。
*全文は私の判断で中学生用に少し言葉を簡単に言い換えている箇所がいくつかあります
*ぜひ、授業に活用してください!
(ちなみに、私は授業で、英語版走れメロスとの比較をしました。例えば、「メロスは激怒した」をどうやって皆さんは訳しますか??という問いでおそらく1時間分の授業になります。)
走れメロス Run, Melos, Run (ラダーシリーズ Level 1)
シラーの “Die Bürgschaft Ballade” と小栗孝則訳「人質 譚詩」
暴君ディオニスのところにメロスは短劍をふところにして忍びよった。警吏は彼を捕縛した。
「この短劍でなにをするつもりか?言へ!」険悪な顏をして暴君は問いつめた。
「町を暴君の手から救ふのだ!」
「磔になってから後悔するな」
「私は」と彼は言った。「死ぬ覺悟でいる。命乞いなぞは決してしない。ただ情けをかけたいつもりなら、三日間の日限をあたえてほしい。妹に夫をもたせてやるそのあいだだけ、その代わり友逹を人質として置いておこう。私が逃げたら、彼を絞め殺してくれ。」。それを聞きながら王は殘虐な氣持ちでほくそ笑んだ。そして少しのあいだ考えてから言った。
「よし、三日間の日限をおまえにやろう。しかし猶予はきっちりそれ限りだぞ。おまえがわしのところに取り戾しに来ても、彼は身代わりとなって死なねばならぬ。その代わり、おまえの罰はゆるしてやろう。」。さっそく彼は友逹を訪ねた。
「じつは王が、私の所業を憎んで磔の刑に処すというのだ。しかし私に三日間の日限をくれた妹に夫をもたせてやるそのあいだだけ、君は王のところに人質となっていてくれ。私が繩をほどきに帰ってくるまで。」無言のままで友を親友は抱きしめた。そして暴君の手から引き取った。その場から彼はすぐに出発した。
そして三日目の朝、夜もまだ明けきらぬうちに、急いで妹を夫と一緒にした彼は、氣もそぞろに帰路をいそいだ。日限のきれるのを恐れて。
途中で雨になった。いつやむともない豪雨に、山の水源地は氾濫し、小川も河も水かさを増やし、ようやく河岸にたどりついたときは 急流に橋はさらわれ、轟々とひびきをあげる激浪がメリメリと橋桁を跳ねとばしていた。
彼は茫然と、立ちすくんだ あちこちと眺めまわし、また声をかぎりに呼びたててみたが、つなぎ舟は殘らず、さらわれて影なく 目ざす対岸に運んでくれる渡し守りの姿もどこにもない。流れは荒々しく海のようになった。彼は河岸にうずくまり、泣きながらゼウスに手をあげて哀願した。
「ああ、しずめたまえ,荒れくるう流れを!時は刻々に過ぎてゆきます、太陽もすでに真昼時です。あれが沈んでしまったら、町に帰ることが出來なかったら、友逹は私のために死ぬのです。」 急流はますます激しさを增すばかり、波は波を巻き、あおりたて、時は刻一刻と消えていった。彼は焦燥にかられた。ついに憤然と勇氣をふるい、ほえ狂う波間に身を躍らせ、滿身の力を腕にかけて流れをかきわけた。神もついに憐憫を垂れた。やがて岸に這いあがるや、すぐにまた先を急いだ。
しばらく行くと突然、森の諳がりから一隊の强盜が躍り出た。行手に立ちふさがり、一擊のもとに打ち殺そうといどみかかった 飛鳥のように彼は飛びのき打ちかかる弓なりの棍棒を避けた。
「何をするのだ?」驚いた彼はあおくなって叫んだ。
「私は命の外にはなにも無い それも王にくれてやるものだ!」。いきなり彼は近くの人間から棍棒を奪い、
「不憫だが、友達のためだ!」 と猛然一擊のうちに三人の者を彼は殴り倒し、後の者は逃げ去った。
やがて太陽が灼熱の光りを投げかけた。ついに激しい疲勞から、彼はぐったりと膝を折った。「おお、慈悲深く私を强盜の手から、さきには急流から神聖な地上に救われたものよ今、ここまできて、疲れきって動けなくなるとは。愛する友は私のために死なねばならぬのか?」 ふと耳に、せんせんと銀の音色のながれるのが聞こえた。すぐ近くに、さらさらと水音がしている。じっと声を呑んで、耳をすました。近くの岩の裂目から滾々とささやくやうに 冷々とした淸水が涌きでている。飛びつくように彼は身をかがめた。そして燒けつくからだに元氣をとりもどした。太陽は綠の枝をすかして、かがやき映える草原の上に巨人のような木影をえがいている。二人の人が道をゆくのを彼は見た。急ぎ足に追ひぬこうとしたとき、二人の会話が耳にはいった。「いまごろは彼が磔にかかっているよ。」。胸締めつけられる想いに、宙を飛んで彼は急いだ。彼を息苦しい焦燥がせきたてた すでに夕映の光りは 遠いシラクスの塔樓のあたりをつつんでいる。すると向こうからフィロストラトスがやってきた。家の留守をしていた弟子は、主人をみとめて愕然とした。
「お戾りください! もうお友逹をお助けになることは出來ません。いまはご自分のお命が大切です! ちょうど今、あの方が 死刑になるところです 時間いっぱいまでお歸りになるのを 今か今かとお待ちになっていました。暴君の嘲笑も、あの方の强い信念を変えることは出來ませんでした。」「どうしても間に合わず、彼のために 救い手となることが出來なかったら 私も彼と一緒に死のう、いくら粗暴な暴君でも、友が友に対する義務を破ったことを、まさか褒めまい。彼は犠牲者を二つ、処刑すればよいのだ。愛と誠の力を知るがよいのだ!」
まさに太陽が沈もうとしたとき、彼は門にたどり着いた すでに磔の柱が高々と立つのを彼は見た。周囲に群衆が撫然として立っていた。繩にかけられて友逹は釣りあげられてゆく。猛然と、彼は密集する人ごみをかきわけた。「私だ、刑吏!」と彼は叫んだ。「殺されるのは! 彼を人質とした私はここだ!」。がやがやと群衆は動搖した。
二人の者はかたく抱き合って悲喜こもごもの氣持ちで泣いた それを見て、ともに泣かぬ人はなかった。すぐに王の耳にこの美談は伝えられた。王は人間らしい感動をおぼえて、早速に二人を玉座の前に呼びよせた。しばらくはまぢまぢと二人の者を見つめていたが、やがて王は口を開いた。「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらはわしの心に勝ったのだ。真実とは決して空虛な妄想ではなかった。どうかわしをも仲間に入れてくれまいか。どうかわしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
暴君ディオニスのところにメロスは短劍をふところにして忍びよった。警吏は彼を捕縛した。
「この短劍でなにをするつもりか?言へ!」険悪な顏をして暴君は問いつめた。
「町を暴君の手から救ふのだ!」
「磔になってから後悔するな」
「私は」と彼は言った。「死ぬ覺悟でいる。命乞いなぞは決してしない。ただ情けをかけたいつもりなら、三日間の日限をあたえてほしい。妹に夫をもたせてやるそのあいだだけ、その代わり友逹を人質として置いておこう。私が逃げたら、彼を絞め殺してくれ。」。それを聞きながら王は殘虐な氣持ちでほくそ笑んだ。そして少しのあいだ考えてから言った。
「よし、三日間の日限をおまえにやろう。しかし猶予はきっちりそれ限りだぞ。おまえがわしのところに取り戾しに来ても、彼は身代わりとなって死なねばならぬ。その代わり、おまえの罰はゆるしてやろう。」。さっそく彼は友逹を訪ねた。
「じつは王が、私の所業を憎んで磔の刑に処すというのだ。しかし私に三日間の日限をくれた妹に夫をもたせてやるそのあいだだけ、君は王のところに人質となっていてくれ。私が繩をほどきに帰ってくるまで。」無言のままで友を親友は抱きしめた。そして暴君の手から引き取った。その場から彼はすぐに出発した。
そして三日目の朝、夜もまだ明けきらぬうちに、急いで妹を夫と一緒にした彼は、氣もそぞろに帰路をいそいだ。日限のきれるのを恐れて。
途中で雨になった。いつやむともない豪雨に、山の水源地は氾濫し、小川も河も水かさを増やし、ようやく河岸にたどりついたときは 急流に橋はさらわれ、轟々とひびきをあげる激浪がメリメリと橋桁を跳ねとばしていた。
彼は茫然と、立ちすくんだ あちこちと眺めまわし、また声をかぎりに呼びたててみたが、つなぎ舟は殘らず、さらわれて影なく 目ざす対岸に運んでくれる渡し守りの姿もどこにもない。流れは荒々しく海のようになった。彼は河岸にうずくまり、泣きながらゼウスに手をあげて哀願した。
「ああ、しずめたまえ,荒れくるう流れを!時は刻々に過ぎてゆきます、太陽もすでに真昼時です。あれが沈んでしまったら、町に帰ることが出來なかったら、友逹は私のために死ぬのです。」 急流はますます激しさを增すばかり、波は波を巻き、あおりたて、時は刻一刻と消えていった。彼は焦燥にかられた。ついに憤然と勇氣をふるい、ほえ狂う波間に身を躍らせ、滿身の力を腕にかけて流れをかきわけた。神もついに憐憫を垂れた。やがて岸に這いあがるや、すぐにまた先を急いだ。
しばらく行くと突然、森の諳がりから一隊の强盜が躍り出た。行手に立ちふさがり、一擊のもとに打ち殺そうといどみかかった 飛鳥のように彼は飛びのき打ちかかる弓なりの棍棒を避けた。
「何をするのだ?」驚いた彼はあおくなって叫んだ。
「私は命の外にはなにも無い それも王にくれてやるものだ!」。いきなり彼は近くの人間から棍棒を奪い、
「不憫だが、友達のためだ!」 と猛然一擊のうちに三人の者を彼は殴り倒し、後の者は逃げ去った。
やがて太陽が灼熱の光りを投げかけた。ついに激しい疲勞から、彼はぐったりと膝を折った。「おお、慈悲深く私を强盜の手から、さきには急流から神聖な地上に救われたものよ今、ここまできて、疲れきって動けなくなるとは。愛する友は私のために死なねばならぬのか?」 ふと耳に、せんせんと銀の音色のながれるのが聞こえた。すぐ近くに、さらさらと水音がしている。じっと声を呑んで、耳をすました。近くの岩の裂目から滾々とささやくやうに 冷々とした淸水が涌きでている。飛びつくように彼は身をかがめた。そして燒けつくからだに元氣をとりもどした。太陽は綠の枝をすかして、かがやき映える草原の上に巨人のような木影をえがいている。二人の人が道をゆくのを彼は見た。急ぎ足に追ひぬこうとしたとき、二人の会話が耳にはいった。「いまごろは彼が磔にかかっているよ。」。胸締めつけられる想いに、宙を飛んで彼は急いだ。彼を息苦しい焦燥がせきたてた すでに夕映の光りは 遠いシラクスの塔樓のあたりをつつんでいる。すると向こうからフィロストラトスがやってきた。家の留守をしていた弟子は、主人をみとめて愕然とした。
「お戾りください! もうお友逹をお助けになることは出來ません。いまはご自分のお命が大切です! ちょうど今、あの方が 死刑になるところです 時間いっぱいまでお歸りになるのを 今か今かとお待ちになっていました。暴君の嘲笑も、あの方の强い信念を変えることは出來ませんでした。」「どうしても間に合わず、彼のために 救い手となることが出來なかったら 私も彼と一緒に死のう、いくら粗暴な暴君でも、友が友に対する義務を破ったことを、まさか褒めまい。彼は犠牲者を二つ、処刑すればよいのだ。愛と誠の力を知るがよいのだ!」
まさに太陽が沈もうとしたとき、彼は門にたどり着いた すでに磔の柱が高々と立つのを彼は見た。周囲に群衆が撫然として立っていた。繩にかけられて友逹は釣りあげられてゆく。猛然と、彼は密集する人ごみをかきわけた。「私だ、刑吏!」と彼は叫んだ。「殺されるのは! 彼を人質とした私はここだ!」。がやがやと群衆は動搖した。
二人の者はかたく抱き合って悲喜こもごもの氣持ちで泣いた それを見て、ともに泣かぬ人はなかった。すぐに王の耳にこの美談は伝えられた。王は人間らしい感動をおぼえて、早速に二人を玉座の前に呼びよせた。しばらくはまぢまぢと二人の者を見つめていたが、やがて王は口を開いた。「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらはわしの心に勝ったのだ。真実とは決して空虛な妄想ではなかった。どうかわしをも仲間に入れてくれまいか。どうかわしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
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