先日、札幌市にある動物園のひどい飼育状況が大きな批判を呼びました。
今回は私たちの身近にある「動物園」の意義についてノースサファリサッポロの事例をもとに考えていきましょう。
そもそも皆さんはなぜ動物園にいきますか?
ノースサファリサッポロとは?
ノースサファリサッポロは、札幌市南区の定山渓近くに位置する体験型動物園で、動物との近距離でのふれあいやエサやり体験を提供してきました。
私も一度訪れたことがありますが、札幌といっても定山渓温泉の近くなので、ほぼ山しかありません。
いわゆる普通の動物園とは全くことなることをイメージしてください。
そして訪れた第一印象はこの山々にたいして規模感が小さい、というよりめっちゃ敷地があるけれど動物がコンパクトな敷地に押し込められている、ということです。
ネットでもその運営方法や動物の飼育環境に対して、多くの批判が寄せられています。
ひどい運営実態と動物への対応
園内には「自己責任」の看板が至る所に設置され、来園者にリスクを強調する運営方針が取られています。
たとえば、ピラニアやワニがいる橋を渡るアトラクションなど、でも、正直これはエンターテインメントですから、受け入れられる人が行けばよいだけの話。なのでこれ自体は私は問題視していません。
問題なのは、動物への適切なケアが行われていないという報告も多く、訪れた人々からは「ひどい」「動物がかわいそう」といった声が多く寄せられています。
動物たちが狭い檻に閉じ込められていたり、不衛生な環境に置かれていたりすることが問題視されています。
例えば、ネットでは
- ヒグマが小さな檻に閉じ込められ、ストレスで常同行動(同じ動作を繰り返す異常行動)をしている。
- トラが糞尿まみれの環境で飼育され、適切な運動スペースが確保されていない。
- フクロウやタカなどの猛禽類が日光を浴びることなく展示され、羽の状態が悪い。
死亡事故の発生とその影響
2024年7月には、飼育されていたライオンが相次いで腎不全で死亡する事態が発生しました。
施設側は遺伝的要因を指摘しましたが、短期間での連続死亡に対し、飼育環境やストレスの影響を疑問視する声が上がりました。
さらに、過去にも動物たちの死亡事例が報告されており、その管理体制や獣医師の対応に関する問題が指摘されています。
具体的には、ネットでは
- 2022年にカピバラが原因不明の病気で死亡。公式な説明はなく、感染症の疑いもあるが調査報告が行われなかった。
- 2023年にはアルパカが極端に痩せた状態で死亡し、餌の管理や健康管理の不足が指摘された。
- 訪問者の証言によると、一部の動物は水を十分に与えられていない状態で放置されていた。
札幌市による閉園命令と今後の動向
これらの状況を受け、札幌市はノースサファリサッポロの運営会社に対し、都市計画法に基づく除却命令、事実上の閉園命令を検討しています。
もともと同園は市街化調整区域に無許可で開設されており、市はこれまで許可を得るよう指導を繰り返してきましたが、運営会社は応じていませんでした。
市の調査によると、施設の増築や拡張が無許可で行われており、違法な営業形態が続いていたとされています。
もし動物園が閉園になるとどのような影響がでると思いますか?
動物園がもし閉園したら?
1. 滋賀県「めっちゃさわれる動物園」の閉鎖問題
滋賀県で営業していた「めっちゃさわれる動物園」は、過去に動物の管理に関するトラブルが相次いで発生していました。施設側は安全対策を講じていましたが、2023年に火災や動物の脱走事件が発生し、閉鎖が決定。しかし、園内で飼育されていた動物たちの受け入れ先が見つからず、運営者が施設に留まる形で混乱が続きました。
このように、動物園の閉鎖が突然決まると、動物たちの行き場が確保されないまま残されるケースが発生します。
2. 兵庫県「淡路島モンキーセンター」の閉鎖とサルの行き場問題
兵庫県の淡路島にあった「淡路島モンキーセンター」では、運営の厳しさから2010年に閉鎖が決まりました。しかし、センターで飼育されていた多数のニホンザルの受け入れ先が決まらず、一時的に野生化する懸念が出ました。
最終的には、一部のサルは他の動物園へ引き取られましたが、全てのサルが受け入れられたわけではなく、地域住民や自治体も対応に苦慮しました。特に、野生化した場合に農作物への被害が懸念され、問題は長期化しました。
3. スペインの動物園閉鎖による動物の安楽死
日本国外でも、動物の受け入れ問題が深刻化した事例があります。スペインのとある動物園では、閉園に伴い多くの動物の移転が必要となりましたが、受け入れ先が見つからず、一部の動物が安楽死処分となりました。
この事例は動物保護団体からも大きな批判を受けましたが、収容できる動物園の数には限界があり、適切な環境での飼育が難しくなる場合、最悪の選択肢として安楽死が行われることもあります。
動物園の存在意義とこれからのあり方
そもそも動物園はどのような存在意義があるのでしょうか?
動物園には大きく4つの意義があるとされています。
教育的意義
日本国内でも子どもから大人まで幅広い層に動物の生態や環境問題について学ぶ機会を提供します
- 旭山動物園(北海道):動物たちの本来の生態に近い形での展示を行い、行動展示を重視。
- 京都市動物園(京都):地域の学校と連携し、教育プログラムを通じて動物保護の意識向上を図る。
種の保存・保全
動物園は、野生環境で絶滅の危機に瀕している動物たちを守る役割も担っています。特に、日本の動物園では繁殖プログラムを通じて希少種の保護が進められています。
たとえば、多摩動物公園(東京都)では、日本国内で数少ないスマトラトラの繁殖が成功し、その個体が世界の保護活動へと貢献しています。
また、神戸市立王子動物園(兵庫県)では、ジャイアントパンダの繁殖に取り組んでおり、パンダの生態研究や個体数の維持に貢献しています。パンダは中国以外での繁殖が難しいことで知られていますが、国内の動物園の努力によって成功事例が増えてきました。
科学研究
動物園は、動物行動学や生態学、さらには獣医学などの研究にも大きく貢献しています。研究成果は動物園内の動物たちの健康管理はもちろん、野生動物の保護や再導入(リ・イントロダクション)にも活かされています。
例えば、京都市動物園(京都府)では、ニホンザルの社会構造に関する研究が行われており、野生の群れの行動解析にも役立てられています。
また、よこはま動物園ズーラシア(神奈川県)では、オカピの繁殖に関する研究が進められ、世界的にも珍しいこの動物の生態解明に貢献しています。
さらに、近年ではAI技術を活用した健康管理の試みも増えており、天王寺動物園(大阪府)では動物の体調をモニタリングするシステムの開発が進められています。これにより、動物たちの健康状態をより正確に把握し、病気の早期発見が可能になっています。
エンターテインメント
動物園は、家族連れやカップル、学校の遠足など、多くの人にとって楽しめる場所でもあります。
しかし、今回のノースサファリサッポロはこのエンターテインメント要素を強くしすぎたのかもしれません。
そもそも運営会社は観光会社。動物を使ったエンタメを重視しすぎた結果が招いた悲劇といえそうです。
ノースサファリサッポロの運営実態や死亡事故は、動物園の在り方を見直すきっかけとなるかもしれません。動物たちの福祉を第一に考え、教育的価値を提供する施設として、どのように進化していくべきか。私たち一人ひとりがこの問題に関心を持ち、考えることが求められています。
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