心理学の論文を初めて書く人にとって、最も難しいのが「研究の方法」だと思っています。
私自身、これまで数百件の論文や研究計画の指導をしてきましたが、多くの方が「何を」「どう調べるか」という設計段階でつまずきます。
そこで本記事では、心理学の論文における研究の方法 の具体的な書き方という観点から、特定の研究テーマに依存しない、汎用的な考え方と設計のポイントを紹介します。後半では「運動習慣定着における心理的要因」という具体例も交えながら解説しますので、自分の研究に置き換えながら読んでみてください。
1.心理学論文の「方法」セクションとは?──何をどう明らかにするかを「他人に再現できる形」で書く
心理学における「研究の方法」は、単に“どう調べたか”を説明するだけでは不十分です。
重要なのは、以下のような科学的条件を満たしていること:
- 他の研究者が同じ方法で再現できる
- 使用した指標・尺度が妥当性・信頼性を担保している
- データ収集から分析までの流れに一貫性がある
たとえば、「◯人の大学生にアンケート調査を行い、◯◯尺度で△△を測定した」と書いてあっても、「その尺度は何を根拠に選んだのか?」「対象選定は妥当か?」など、細かく見られます。
2.【STEP 1】調査対象・サンプルの設計──誰に調査するのが最適か?
心理学研究では、対象の選定が結果の信頼性を左右します。
一般的なポイント
- 年齢・性別・職業など、研究テーマに関連する要因を考慮して設定
- サンプル数は少なすぎても信頼性に欠けるため、最低30~50人程度は必要(分析法による)
具体例(汎用型):
「本研究では、◯歳以上の一般成人を対象に調査を行う。対象は○○の経験がある者/ない者を区別してグループ分けし、心理的要因の差を比較する。」
3.【STEP 2】測定項目の設計──自作せず、先行研究の尺度を活用
心理学の調査項目は、「自分で作ればよい」というものではありません。
むしろ、「先行研究で妥当性が確認されている尺度を使用する」ことが基本です。
よくある測定項目の例(汎用的)
- 自己効力感(General Self-Efficacy Scaleなど)
- 不安傾向(STAI)
- 認知の歪み(IBT、DASなど)
- トラウマ体験(ACE質問票など)
応用のコツ
- 既存の尺度を一部変更・組み合わせるのはOK(ただし理由を明記)
- 複数の尺度を使う場合、測定する概念の重複や矛盾に注意
4.【STEP 3】質問項目の設計上の注意点──「答えやすい≠正確なデータ」
心理学研究では、「聞きたいことが正しく聞けているか」が最大の課題です。
たとえば、「あなたは○○したいと思いますか?」という単純な設問は、
回答者の思惑やその日の気分に左右される可能性があり、本質的な動機や態度を正確に測れないことがあります。
解決策:
- 行動変容ステージモデルなどの心理モデルに基づく設計
- 回答選択肢に**複数の段階(例:強くそう思う~全く思わない)**を設ける
- 「なぜそう思うか」を補足的に自由記述で取る
5.【STEP 4】分析方法の明示──「何を明らかにするために、どの手法を使うか」
ここを曖昧にしたままだと、基礎知識が不十分と判断される可能性が高いです。
調査目的と整合性のある統計手法を選びましょう。
よく使われる手法と目的例:
分析手法 | 使用目的 |
---|---|
t検定 | 2群の平均差を比較 |
分散分析(ANOVA) | 3群以上の比較 |
相関分析 | 変数同士の関連性の強さを見る |
回帰分析(重回帰など) | 複数の要因が結果に与える影響を予測 |
✅ ポイント:「仮の見通し」でもいいので必ず記載すること(例:「本研究では群間の差を見るため、分散分析を予定している」など)
6.【応用例】運動習慣に関する心理的要因研究の「方法」例文
最後に、これまでの内容を踏まえて、ひとつの具体的な方法パートの記述例をご紹介します。
研究テーマ(例):
運動習慣の定着を妨げる心理的要因の検討
方法セクション(例):
本研究では、18歳以上の成人100名を対象にオンライン調査を実施する。調査項目は、運動習慣の有無、改善の意思、過去の運動に関する否定的経験、運動自己効力感を含む。<br>
測定には、MarcusらによるExercise Self-Efficacy Scaleおよび運動忌避傾向に関する先行研究をもとに作成した自作質問を使用する。<br>
データ分析では、運動意思の有無と心理的要因との関連を検討するため、群間比較(分散分析)および相関・回帰分析を実施する予定である。
まとめ|心理学論文の「方法の書き方」は再現性と根拠がすべて
心理学の論文方法セクションで大切なのは、
**「他人が再現可能な詳細さ」と「科学的根拠のある設計」**です。
▼ この記事で紹介したステップをもう一度確認しましょう:
- 対象とサンプル設計:だれに、なにを調査するか明示する
- 尺度の選定:先行研究で妥当性のある質問項目を使用
- 設問の工夫:曖昧な答えを避ける工夫をする
- 分析手法の明示:目的と合致した方法を記載
この流れを押さえることで、**どんな心理学テーマでも「通用する方法セクション」**を構築できます。
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